人気ブログランキング |

絶対音感は必要か。

先日、生徒のお母様から「絶対音感って一体どんなものですか」と聞かれました。
曲を聴き、それを旋律(ドレミ)に置き換えて、すぐに楽器を演奏したり、歌ったりすることができる感覚のことだと答えました。“ベートーベンの交響曲第5番「運命」(ジャジャジャジャーン…で始まる、あの作品)を聴いて、どの音を想像するか”という問いに、“ソソソミー(♭)、ファファファレー”と答える。あるいはチャルメラのメロディーが「ドレミーレド、ドレミレドレー」と固定で聴こえる…、簡単に言うとそれのことです。

そういえば、私は今まで音楽をやってきて、絶対音感の重要性について、自分に照らし合わせて考えることがなかったと気付きました。小さい頃からピアノとソルフェージュ(聴音など)のレッスンを受けてきたせいか、鼻歌を歌うときも、音大受験の時も、音程を取る(書く、歌う)ことに苦労しませんでした。自然に音感がついていたのでしょう。
といっても特に絶対音感を重視したレッスンではなく、頑張ってつけようとしてついたものではありません。

世の中には「小さな子どもに絶対音感をつける!」ことを目的にした教育法やレッスンが存在します。
さて、一体それはどのくらい役に立つものなのでしょうか。

旋律の捉え方に、固定ド唱法と移動ド唱法の二つがあります。
固定ド唱法はCの音をドに固定し、ドレミ…と歌うもの、Gから始まればソラシ…です。ピアノは固定ドの楽器となります。
移動ド唱法は音階の主音をドとし、調が変わるとドの位置も移動します。Gから始まっても、ドレミ…。クラリネットやオーボエといった移調楽器が、この移動ドの楽器です。例えばB管のクラリネットにてC(ド)の指使いで音を出すと、B(シ♭)の音が鳴ります。実音は記音より低く鳴るということです。
絶対音感の訓練で取り上げられる旗揚げ…"Cはドとして耳を鍛える教育"を受け、例えば中学校でブラバンに入り移調楽器を吹くことになったら…混乱してしまう可能性があります。

次に古楽器のお話をしましょう。
私が学んだブレーメン芸大は古楽科が有名です。リュートやビオラ・ダ・ガンバといった、バッハより古い時代の楽器が学べ、著名な先生方が多くレベルも高いです。ここで色々な面白い古楽器を知りました。
ピアノという楽器は440~442ヘルツという音程に固定して調律されています。古楽器の場合415ヘルツで演奏されることが多いそうで、時代や楽器、作風によって更にヘルツ数を変えたりします。弦楽器は調弦をすることによって、それが可能です。440と415の差はかなり大きいです。
もしピアノの440〜442ヘルツを耳に叩き込めば=絶対音感を訓練により完璧に身に付けてしまったら、ここでも問題が発生するでしょう。素晴らしい楽器はピアノだけではありません。小さい時に絶対音感だけを鍛えてしまい、可能性を狭めてしまうのでは問題です。

ちなみに440ヘルツと442ヘルツの間にも若干の差があり、オーケストラ奏者の中には、440で訓練してきて442ヘルツで演奏するとなると、気持ち悪くなる人もいます。
そこで、絶対音感とは違う音感が必要となります。相対音感です。
音程の悪いオーケストラ楽器はよろしくないので、アンサンブルをする楽器同士で音程を揃えなければいけません。管弦楽器の試験などでは、調律されていないピアノ伴奏にその場で対応できるか、その腕があるか見られたりします。

日本の音楽教育は、どちらかというと固定ド唱法に重きを置いており、逆にヨーロッパは基本、移動ド唱法です。ヨーロッパの大学で勉強した一人として、絶対音感だけを重視したレッスンはどうかと思っています。
鍛えるべきことは、それだけではないからです。

最初の質問の答えの最後に、私は答えました。友達とカラオケに行ったり、流行の曲を口ずさむ時、音痴にはならないように、レッスンに弾き歌い等ソルフェージュの要素を入れていくのが大事だと思っています、と。
音楽を専門にするなら勿論、そうでなくても、音痴が一番致命的です(苦笑)。
私の友人で歌手のCさんは絶対音感がなく、聴音は移動ドで聴こえ、"固定ドのやり方では"聴き取れないそうですが、素敵な歌声で人を惹きつける、世界で活躍する歌い手さんです。
絶対音感が不要というわけではありません。ただ絶対音感という言葉だけに支配されず、相対音感の大切さ、何より音楽を楽しむのにバランスのよい向き合い方を見つけて行きたいものです。

by pianokammer | 2013-08-15 02:14 | 講師の独り言