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辻井伸行 ピアノリサイタル

先日トーンハレにて、ピアニスト辻井伸行さんのリサイタルを聴いた。

ショパンとリストの小品から大曲までを集めた、魅惑的なプログラム。
前半のショパンは、ポ−ランドの魂のような、伝統的な血さえ感じられるリズム、テンポ、それでいてクセのない、誇張を避けた自然な音楽。メロディーを明快に奏でる右手と、デリケートなニュアンスでそれを支える左手は、どちらも生き生きしている。
演奏前、彼は鍵盤と椅子の位置を綿密に確認する。そうして指から紡ぎ出される、完璧なコントロールに驚愕してしまう。

後半のリスト、エステ荘の噴水では連打和音の豊かな響きから、流れくる水が目の前に浮かびあがってくるよう。そして、1ミリの狂いもなく、完全に彼の手に支配されたカンパネラ。
プログラム最後はオペラ「ファウスト」のワルツを。左手で熱狂的に刻まれる3拍子で、観客の心を躍らせ、興奮は頂点になった。オペラの編曲版だが、ピアニズムのロマンティックな華麗さや、ダイナミクスが存分に生かされていた。

この1週間前にはラフマニノフのピアノ協奏曲を弾くなど、世界中で精力的な演奏活動をこなし、その精神力、体力とも尋常でないエネルギーを持つ、超人的なピアニスト。
目が見えないというハンディーや、大きなプレッシャーをとてつもない努力で乗り越え、自身を盛り上げていくだけの気概を持ち合わせているのだろう。

この素晴らしい演奏会で、一つだけ残念だったのが、ホール内で演奏を撮影・録音する人がいたことだ。プロの演奏家による公演で、こういった行為は肖像権の問題などがあり禁止されている。
昨年エッセンであった、ピアニスト、クリスティアン・ツィマーマンのリサイタルでの出来事に触れてみる。
演奏中、客席からスマートフォンで撮影されているのに本人が気付き、演奏を中断、客席に向かって(撮影を)止めるよう言った。その後、演奏を再会したものの、集中力は途切れてしまった。

ソロの演奏家は楽譜なし、高い緊張感と集中力を持って舞台に上がるのだ、お客がそれをつぶしてはいけない。
“Youtubeで聴くことができると言われ、CD録音を断られる。Youtubeを通じての、音楽の絶滅は甚大だ。“とはツィマーマン自身の言葉だ。Youtubeで有名になりたい人は多いが、そうでない人もいる。

それに真っ暗な客席から機器のランプやフラッシュが光ると、単純に迷惑だ。
個人のためなら、誰にも見つからないようにして、一人で見て満足して欲しいと思う。

とはいっても辻井さんは、自身のピアノで多くの人を楽しませたいという気質を持っていて、神経質なツィマーマンとは、全く違う意見カモ、しれない。彼自身のピアノへの素直な愛が、何より軸になっているだろうから。

アンコールは観客を喜ばせることを忘れない、気前のよさでショパンのノクターンや革命、自身の作品はドイツ語挨拶と英語で紹介。最後は別れの曲で締めた。幻想的な色彩、音楽との喜びが湧然とあふれ出る世界で、観客をひきつけた夜だった。

2014年5月14日(金)20時 Nobu Tsujii, Tonhalle in Düsseldorf
Programm プログラム
F.Chopin ショパン
Nocturne cis-moll Op.posth. 夜想曲 嬰ハ短調 遺作
Nocturne E-Dur op.62-2 夜想曲第18番 ホ長調
Andante spianato et grande Polonaise brillante Op.22 アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズ
Klaviersonate Nr.2 b-Moll op.35 ピアノソナタ第2番 「葬送行進曲つき」
F.Liszt リスト
Les jeux d’eaux à la Villa d’Este「巡礼の年 第3年」より エステ荘の噴水
Sonetto 104 del Petrarca 「巡礼の年 第2年イタリア」より ペトラルカのソネット第104番
Liebesträume Nr.3 愛の夢 第3番 / la Campanella ラ・カンパネラ
soldes Liebestod イゾルデの死
Valse de l’opera Faust Valse de グノー(リスト編) 歌劇「ファウスト」のワルツ
***Zugabe アンコール
ショパン Nocturne Op.27-2 夜想曲第8番
辻井伸行 「それでも、生きてゆく」
ショパン Etüde Op.10-12 革命
ショパン Etüde Op.10-3 別れの曲

by pianokammer | 2014-05-17 05:52 | コンサート評